『The Business of Venture Capital』ではPEクラスの資産・商品として
  • Venture capital(ベンチャーキャピタル)
  • Leveraged buyout funds (LBOs)(レバレッジバイアウトファンド)
  • Mezzanine funds(メザニンファンド)
  • Distressed debt(ディストレスト債)
  • Special situations(スペシャルシチュエーションズ)
  • International private equity(グローバルPEファンド)
といったあまり聞き慣れない商品群が紹介されています。

このうち比較的イメージしやすいのはベンチャーキャピタルでしょうか。創業間もないスタートアップや成長途上にあるスタートアップに資金を提供し、将来的なエグジット(M&Aによる売却やIPO)でリターンを得るというモデルです。
バイアウトファンドについては最近ではLBOよりもMBOの方が目にすることが多いです。上場企業の経営陣が自社株を買い取って非上場にするケース、最近だとテスラの非上場化観測について報道が流れましたが、例えばそういうケースで資金提供を行うファンドです。

メザニンファンド、ディストレスト債、スペシャルシチュエーションズはいずれもほとんど目にすることがないと思います。これらのフォンドの特徴としては、資金需要があるにもかかわらず銀行からの資金借り入れを行えない企業に資金と経営支援を提供して、企業価値や債権価値をあげてリターンを得るというモデルです。
説明に良さげな日本語の情報を探したところ、経済産業省からの委託を受けて三菱総研が行ったメザニンファイナンスの実態調査のレポートが公開されているのを見つけました。メザニンファイナンスとなっていますが、メザニンファンドだけでなくバイアウトファンドについても取り上げられている、コンパクトですが分かりやすい良いレポートです。

このレポートでメザニンファイナンスの定義をみると
メザニンとは英語で「中二階」を意味し、負債(デット)と資本(エクイティ)の中間に位置するミドルリスク・ミドルリターンのファイナンスであることを示す。ハイブリッド・ファイナンスということもある。
とあり、実際のメザニンファイナンスを活用する企業の目的が類型化してまとめられています。
Mezzanin
株式会社三菱総合研究所『平成24年度 産業金融システムの構築及び整備調査委託事業 「国内外のメザニン・ファイナンスの実態調査」報告書より引用

また、実際のメザニンファンドやバイアウトファンドの活用事例が複数掲載されていますが、PEファンドの名に違えて、上場、非上場は問わずに利用されている状況が紹介されています。

このレポートを見ると、「負債と資本の中間」「ミドルリスク・ミドルリターン」といったコンセプトや資金活用目的、資金提供対象などが日本のソーシャルレンディングの事業ローン系ファンドと同じ傾向で、金融商品としての特性的にも比較的近い可能性がありそうです。
PEクラスのファンドは通常機関投資家向けで、最低出資金額は小さいファンドでも数億円相当、大きいファンドでは二桁億円になると思いますし、そもそも個人投資家がアクセスするのは現実的に無理です。代替的な手段としてソーシャルレンディング商品に投資することで、個人投資家であってもオルタナティブ資産への投資による「資産クラスの分散効果(ポートフォリオ全体のリターンとシャープレシオの改善)に類似した効果を得られる可能性はあるのではないかと思っています。
これまでも「ソーシャルレンディングがどのアセットクラスに属するのか」という観点でいくつか記事を書いていますが、ソーシャルレンディングの性質的にオルタナティブ資産の一部のものに近いのではという仮説は個人的には納得感があります。

グローバルPEファンド
は上記商品郡のインターナショナル版だと捉えれば、クラウドクレジットの商品で代替できそうです。

これまで考察したところ、ソーシャルレンディングの商品を『The Business of Venture Capital』で挙げられているオルタナティブ資産クラスにマッピングすると、
  • 不動産系ファンド → 不動産アセット
  • エネルギー系ファンド → 商品アセット
  • 事業系ローンファンド → PEアセット
と言った感じでしょうか。

「ソーシャルレンディングの分散効果」が「オルタナティブ資産の分散効果」に近似すると仮定すると、オルタナティブ資産のアロケーションを参考にすることで「ソーシャルレンディングに割り当てるのは資産全体の何割が適切なのか」という以前からの疑問に対してのヒントにもなりそうです。

次回は、この点についての考察です。

<おまけ>
先述のメザニンファイナンスのレポートでは制度面の課題を列挙して指摘しているのですが、以下のものについてはソーシャルレンディングでも同様の課題がありそうだと感じます。
  • 金融市場におけるリスクとリターンがアンバランスである:低金利の貸出過当競争があり、健全な市場成長は見込みづらい。
  • 利息制限法を根拠とした 15%の上限金利がある:ニーズのある企業にも関わらず、資金提供できないことがある。
  • メザニン・ファンド設立時の貸金業登録に係る手間とコストが負担である:ファンドごとに貸金業主任者の登録が必要である。
  • 優先株式のセカンダリーマーケットがないため、エグジット戦略の立案が難しい