3月の映画「マネーショート」のエントリーで触れたリチャード・セイラーの新著『Misbehaving』の訳本がやっと出版されました。

行動経済学の逆襲 (ハヤカワ・ノンフィクション)
リチャード・セイラー
早川書房
2016-07-22


しかし何故かタイトルが『行動経済学の逆襲と元のタイトルとは大違い。前作の『実践行動経済学』も元タイトル『Nudge』のニュアンスが伝わりきれない気がしましたが、今回のよりはマシ。翻訳はいずれも遠藤真美という方なのですが、この方の嗜好なのでしょうか、それとも出版社の意向なのでしょうか。どちらにしてもあまり売れそうにないタイトルですね。

内容は、行動経済学の第一人者であるリチャード・セイラーが自身のこれまでの研究者人生を振り返る形で、行動経済学との関わりや規範型経済学との軋轢の歴史、その後英国政府の政策へ影響をあたえていくまでになった流れについて触れられています。全体的にうっすらとアカデミックなトーンが覆っていますが、取り上げている逸話や研究の対象が砕けた感じのものが少なくなく最後まで興味を維持して読むことが出来ました。

損失回避、保有効果、メンタルアカウンティング、自信過剰といった行動経済学の主要なトピックについても説明されていますが、特に目新しい理論が紹介されているわけではありません。というかダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』読んでるのが前提になっているような書きっぷりです。

読みどころはいくつかありますが、資産運用面で参考になるのは効率的市場仮説の限界について触れられているところでしょうか。市場におけるアノマリーやミスプライシングといった事象について裏付けとなるデータやグラフが提示されているのですが、加えてその背景となる人間の思考の癖(バイアス)について考察されており、市場は必ずしも完全ではなく時に間違うことがあることをより強く認識させられます。ということは、この間違いや思考の癖を突き詰めていくことができれば「市場に勝つ」ことも可能なはずですが、問題は「市場が間違っていることが分かってもそれがいつ訂正されるかがわからないと稼ぐことが出来ない」という事実です。ミスプライシングの典型例としてバブルがありますが、いち早くバブルと気付いて空売りができたとしてもそのバブルがいつ弾けるかが分からないと、自分の資金が先に付きてしまったり最悪のケースでは自分が生きている間はずっとバブルが弾けない可能性すらありえます。「訂正されるタイミングが分からなくても市場が間違っていることが分かっているだけ稼ぐことの出来る戦略」はないものでしょうか。それが見つかるまではキャピタルゲイン狙いで継続的に市場に勝つのは諦めてせめて市場と同等のパフォーマンスを得られるようにインデックスファンドでの運用を続けようと思います。

行動経済学と資産運用については、ほぼ1年前のエントリーですが
「行動経済学で考えてみる ー インデックス投資に適しているのは?「投資信託 vs ETF」と「ドルコスト平均法 vs バリュー平均法」(1)」
「行動経済学で考えてみる ー インデックス投資に適しているのは?「投資信託 vs ETF」と「ドルコスト平均法 vs バリュー平均法」(2)」
あたりを見てみて下さい。もし多少なりとも興味引くようであれば、ぜひダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」を読んでみてください。資産運用にも参考になること請け合いです。