先月のレンディングクラブの決算発表の際に開催されたWebcastで「もしリセッション(景気後退:定義上は2四半期連続してマイナス成長)になったら投資家の利回りにどういう影響が見込まれるのか」という興味深いトピックスがとりあげられていました。以下でその内容の一部をご紹介したいと思います。なお、使用しているスライドはレンディングクラブのQ4決算資料からの抜粋ですが、ここで入手できます。当日の録音内容も聞くことが出来ますので詳細を確認したい方は直接そちらにアクセスして下さい。
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 最初に「想定するシナリオとしてFedのCCARに近いMoody'sのS3シナリオを採用した」旨の説明があります。いきなり「FedのCCARって何?」「Moody'sのS3シナリオって何?」の状態になったのでちょっと調べてみました。

まずFedのCCARはFRBが出している「Comprehensive Capital Analysis and Review」のことのようです。リーマン・ショックの後で金融機関の健全性をチェックするために「ストレステスト」と呼ばれる検査が注目を集めましたが、CCARはストレスとテストの際に用いられるシナリオを規定しているようです。ちなみにこちらに2015年のCCARを使った米国金融機関のストレステストの結果がアップされています。

Moody'sのS3シナリオの方は、Moody'sのサイトで「August 2015 U.S. Macroeconomic Outlook Alternative Scenarios」という資料がアップされており、そこに列挙されているシナリオの一つに含まれていました。
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(前述August 2015 U.S. Macroeconomic Outlook Alternative Scenariosから抜粋)

このシナリオは2015年8月時点に作成された仮想シナリオで、その内容をおおざっぱに訳してみると以下の通りです。
  • FRBが市場予測より早く利上げに踏みきるという見通しから、2015年Q3に10年もの米国債が3.2%に上昇、株価は悲惨な状態に
  • ドル高が強まり、欧州は再度リセッション、中国の不動産市況の不振に始まりアジア全体の成長が鈍化
  • 輸出、米国内設備投資と不動産いずれも弱含み2015Q4からリセッションへ突入、社債のスプレッドが拡大
  • 不動産市況が悪化、2105Q3から2016Q4にかけて平均価格が8.6%下落するが2011年ほどの悪化にはいたらない。供給は20%下落
  • 2016Q4から回復基調に。2017Q2までは金利は0%近辺を維持
  • GDPは2015が+2%、2016が−1%、失業率は2016Q4に8.1%でピークとなる(レンディングクラブのスライドに掲載されているシミュレーション条件では失業率は2016Q1に8%でピークになるという条件になっているのでレンディングクラブが使用しているS3シナリオは2015年8月場により後のものだと思われます)
なかなかシビアな想定ですが、シナリオ作成時点の状況では90%以上の確率でこのシナリオよりも良い状況になるという注釈がついています。その後シナリオ作成から半年以上経過していますが、FRBの利上げ時期が市場の予測時期に近かったこともあり米国10年国債は2.4%を越えることなく推移し現在では2%を切った水準に落ちています。今後このシナリオ通りに米国がリセッションにはいるような可能性は少ないのでしょうが、利上げ後の株価の下落や中国およびアジアの不振といったその影響については多少なりとも当てはまっているように見えます。 気にはなりますね。

余談ですが、Moody'sの「August 2015 U.S. Macroeconomic Outlook Alternative Scenarios」には他にもスタグフレーションになった場合のシナリオやオイル価格が向こう3年間低下したままの場合のシナリオなどが掲載されています。エコノミストの予測は必ずしも当たらないというのは周知の事実ですが、いろんな見方に触れておくことはそれなりに有益でしょうから、興味ある方は目を通してみると良いのではないかと思います。