少し前にナシーム・ニコラス・タレブの「まぐれ」を再読していたいのですが、興味深い記載がありました。
第3章で出てきた歯医者はボラタリティが嫌いだった。変動率が高いとひどい苦しみを頻繁に感じるからだ。自分のパフォーマンスを頻繁に調べれば調べるほど、変動性を高い解像度で見ることになり、苦しみも大きいのだった。だから投資家たちは、ただただ情緒的な理由で、変動する時には大きく変動するけれど、極稀にしか変動しない投資戦略にひきつけられてしまうのだ。
(中略)
市場参加者は損失の回数が少ないのを好み、利益の回数が多いのを好む。全体としてのパフォーマンスの最適化を考えるわけではない。
(ナシーム・ニコラス・タブレ「まぐれ」143ページより引用)

これってソーシャルレンディングにもまんま当て嵌まる警句ですね。

まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか
ナシーム・ニコラス・タレブ
ダイヤモンド社
2008-02-01




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順調な時はボラタリティが低く安定的なのに、突然前触れなく大幅な損失を出す投資商品があります。例えば、スワップポイント狙いのFXや高金利狙いの新興国債券やジャンク債、オプションの売りなんかは、定期的に少額のインカムがあり通常時は収入がどんどん積み上がっていきます。そのまま何事も無く運用が続けばよいのですが、ある日突然大幅な損失を出す可能性があります。例えば、今年1月にあったスイスフランショックではスワップポイント狙いでコツコツ稼いでいた投資家が文字通り一夜にして大幅な損失を被りそれまでの稼いだ分はもちろん元本まで吹き飛ばすという事態になりました。また新興国債券の場合は、いわゆるソブリンリスクと為替リスクの2重のリスクと引き換えに高い金利収入を得るというものになっています。著名な例ではLTCMがロシア債のデフォルトで吹っ飛びました。
他によく似たものでは、投資商品ではありませんが、損害保険の運営は同様の課題を抱えていますす。毎月保険料を徴収して特に災害がなければ保険料はそのまま収入になりますが、一度想定以上の災害が発生すると大量の保険金の払い出しが必要になり準備金で賄えなければ破綻の可能性もあります。「ヤバい統計学」という本ではハリケーン保険で稼いでいたフロリダの損害保険会社が10年かけて積み上げてきた収益金を一気にふっ飛ばして破綻した例が取り上げられています。破綻するまでは非常に優秀な企業として讃えられていたのに、です。金融商品でいうとオプションの売りは価格変動の保険を販売することになるのでこれと同じリスクがあります。

これらの投資は順調な時はボラタリティが低く、定期的に金利収入が入ってくるため裏に潜んでいるリスクを過小評価しがちです。本来投資というのは勝ち負けの回数や勝率は重要ではなく最終的なリターンや損失の量が重要なのですが、人間はダメージの大小に関わらず損失に触れると強く不快に感じる性質があるため、1回だけ大きく負けるよりも少しずつ何回も負け続けるほうが不快感が大きく感じるようになっています。その性質にうまく付け入っているのが、先に上げた「通常時は定期的に金利収入があるが、潜んでいたリスクが発現すると一気に稼ぎと元本(まるごとあるいは一部)が吹っ飛んでしまう」投資になります。毎月少額(元本の数%)の金利収入を得てアドレナリンを得る代わりに、たった一度の負けで突然元本ごと一気に吹っ飛んでしまうリスクに目をつぶっていることに気付かないことも少なくありません。実際に吹っ飛んでから「XXXさえなければうまく逃げきれるはずだった」って。XXXはいろんなモノが入ります「スイス中央銀行の突然の方針変更」「日銀の緩和バズーカ」「急激な原油安による新興国財政不安」「ギリシアの虚偽報告」最近だと「中国株市場の崩壊」とか。これからもXXXに入るモノは起こり続けるのでしょう。

ソーシャルレンディングもまさに同様のリスクを抱えています。順調な時は毎月分配が入りますが、突然貸出先がデフォルトしてしまうといった状態になると、それまでの金利収入を吹き飛ばして元本部分も毀損する可能性があります。というかよくよく考えると、インカムゲイン狙いで投資する高利回り商品のほとんどは突然吹っ飛ぶ系の商品です。利回りが高いということは裏に相応のリスクが潜んでいるワケですから。つまりインカムゲイン狙いで投資を行うということはこれら突然吹っ飛ぶ系の商品とはうまく付き合っていく必要があります。リスクを避けて通るというのももちろんありだと思いますが、せっかくの高利回り商品なのでなんとかうまく資産構成に組み入れたいものです。ただし「突然吹っ飛んでしまう」という本質的なリスクは回避できないので、それ以外のリスク要因をコントロールして付き合う必要があります。

次回、具体的な対応方法について。