ソーシャルレンディングへの投資を始めて1年近くになりますが、これまで配当が遅延したケースはあってもデフォルトになったケースはありません。また自分の投資先に限らずソーシャルレンディングの案件でデフォルトになったという話は聞こえてきません。maneoのサイトから2015年4月時点の状況を抜粋すると↓です。
maneo
一方で全国銀行協会が公表している全銀行貸出に占める不良債権比率は2014年3月末時点で2%、2014年9月末時点でも1.82%になります。多少時期のズレはありますが、ソーシャルレンディングにしてもいくばくかのデフォルトが発生していてもおかしくない状況に思えます。本当にソーシャルレンディングの貸出先はデフォルトがおこらないのでしょうか?ソーシャルレンディングに投資する上で重要なリスク要因でありこれまでずっと疑問に思っていたので、関係しそうな情報を調べてみました。いろいろ興味深い発見がありましたのでご紹介させていただきます。なお6回ほど続きます・・・

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まず大枠の可能性としては以下のどちらかになります。
  1. デフォルト可能性のある貸出先が含まれていない(貸出先がすべて信用度の高い優良企業のみ!)
  2. デフォルト可能性のある貸出先が含まれているが何らかの理由で発覚していない
1つめの可能性はまずありえないですよね。貸出金利が低くより審査の厳しい銀行ですら2%の不良債権が発生しているので、銀行より柔軟なぶんだけより高い金利での貸出を行っているソーシャルレンディングが銀行より信用度の高い企業だけに貸し付けているというのはあまりにも不自然です。
そうすると必然的に2つめの可能性に絞られてきます。それであればデフォルトが発生してそうなもんですが、何故それがないのでしょうか。

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・本当はデフォルトが発生しているが隠蔽されている

先ほどのmaneoサイト抜粋にある延滞17件についてですが、延滞が発生した際に連帯保証人だった保証会社から保証を受けた事実を当初投資家に公開していませんでした。それが証券取引等監視委員会に発覚し(発覚の経緯は不明)指導を受けました。表の表記だと融資先がデフォルトしていたのか延滞していたのかがはっきりしませんが、当時のmaneoからのメールによると延滞だったとの説明でした。この件と同じように、本当はデフォルトしているにも関わらず何らかの理由でそれを投資家へ開示していない企業がないとは言えません。現状ファンドの状況に関して第三者によるチェック状況を公表している企業はありませんので。ただ、個人的にはこの可能性は低いかなと思っています(理由は後述)。

・たまたまデフォルトが発生していない

確率的にはたまたまデフォルトが発生していないということも考えられます。確率的にランダムであってもサンプル数が少ない場合は極端な偏りがでることは理論上十分ありえます。例えばコインを投げて表が4回連続出たり、裏が4回連続出たりするとちょっと不自然に感じますが、実際は8回に1回は「表か裏が4回連続」出ます。サンプル数が少ない場合は一見偏った結果が出ることは十分ありえるにも関わらず、「何か理由がある」と思いこみやすいというのは行動経済学でも取り上げられる話題です。前述の「不良債権比率2%」は貸出金額約500兆円の平均値なので、それより貸付がはるかに少ない(貸出残高をざっくり100億円としてもわずか0.002%)ソーシャルレンディングで極端な値が出るのはそれほどおかしなことではないです。この可能性はそれなりにあるかもしれません。この場合は、現在たまたまデフォルトしてないだけで、いずれ平均への回帰が起こります。つまりそのうちデフォルト案件が発生します。

・既にデフォルトが発生しているが保証会社の代位弁済でカバーされている

AQUSHの保証会社不動産担保ローンでは保証会社の保証をつけていることが明記されていますので、融資先がデフォルトしても投資家に損失は発生しないはずです。他のソーシャルレンディング企業で保証会社の保証をつけていることを謳っている企業はありませんが、maneoは先ほど触れた延滞発生時に連帯保証人である保証会社から保証を受けていたそうです。いずれにしろすべての融資先が保証会社をつけることに同意することもないでしょうし(コストかかりますから)、そもそも保証会社自身の信用度の問題もあり2%〜3%程度のデフォルト率であればさすがに問題ないでしょうが、ある程度を超えてくると保証しきれなくなる可能性がでてきそうです。EDIUNETという財務諸表から独自に信用リスクを計算しているサイト(信憑性は不明、かつもう更新されてないです)があり、AQUSHの保証会社パートナーであるJトラストとアサックスの2013年度3月期決算は両社ともCCC扱いになってました。CCCはさすがに極端だと思いますが、財務状況が完璧というわけではないのは間違いなさそうです。2−3%程度の軽微なデフォルトでに対応できても、本来保証が重要な意味を持つより大きいデフォルト率に万一対応できない可能性があればあまり保証の意味をなさないです。保証付きと言っても民間の保証会社の場合は過信しすぎないことが大事だと思います。

・本来デフォルトしている企業が延命している

リーマン・ショックの際にモラトリアム法(中小企業金融円滑化法)というのがありました。これは借り手である中小企業から返済条件の見直しの依頼(例えば返済期限の延長や月々の返済金額の見直し等)があった場合、銀行は極力応ずる義務がある、というトンデモな法律でした。当時40万〜50万社が申請したそうです(なおこの法律は2013年3月で失効しています)。
これほど大規模でないにしても、本来デフォルトしてもおかしくない企業が延命していることが考えられます。融資返済期限時に次の融資を切れ目なく継続して提供することで実質的に返済期限の延長を行うことができます。借り手は、毎月の利子の返済は必要ですが元本の返済は先送りできます。再融資すべてが悪いとは思いませんが、融資期間中に信用度が低くなり本来であれば再融資を認めるべきではない企業にも貸出されているようなとことがあったりすると問題です。現在の環境が続く間は延命であってもうまくいくかもしれませんが、なにかのきっかけで投資家からの資金が集まらなくなったら延命企業は立ちいかなくなるでしょう。
この件は背景として「融資判断をするソーシャルレンディング企業にとって融資先の信用度が高い低いに関わらず融資を実行することが短期的な企業利益につながる」という点に考慮が必要です。融資の返済結果が企業の利益に反映されるのであれば信用の低い企業には融資しないという行動が期待できますが、ソーシャルレンディング企業の場合最終的に完済されるかどうかに関わらず手数料収入が入るようになっているため信用が下がった企業へも貸付を行うことで手数料収入の最大化につながります。これはいわゆるエージェンシー問題というやつにあたりそうですが、一般的には情報公開(情報の非対称性の解消)とインセンティブ及びペナルティ設計(利害の一致)が代表的な対策と考えられています。融資先の情報公開は規制されているということなのですが、何かいい方法はないでしょうか。インセンティブ設計については、ソーシャルレンディング企業が手数料を受け取るのは「再融資なしで元本を全額回収した場合のみに限る」といった設計が考えられますがさすがに現実的には難しいでしょう。

ソーシャルレンディング企業の立場で考えれば、先ほどあった「隠蔽する」くらいであれば、再融資を実施することで隠蔽発覚のリスクも避けられますし手数料も継続して入ります。経営者の立場でどちらかを選ばないといけないとすると間違いなくこちらが選択されるでしょう。現状、再融資は「ある」とは言えませんが「ない」とも言い切れません。いずれにしてもずっと延命し続けることはできないでしょう。

まだまだ他にもあるかもしれませんがこのへんで一旦終わります。いずれにしろ普通に考えるとデフォルトは避けれそうにないですね。では、実際どの程度のデフォルトが発生する可能性があるのでしょうか。