VCの知人と一緒に行動することが増えてVC業界についてもいろいろ調べているという話を少し前にしましたが、その関係でFred Wilsonという米国VCのブログを見るようになりました。
Fred Wilsonはニューヨークを拠点とするUNION SQUARE VENTURES(レンディングクラブやレンディングクラブの元CEOが立ち上げたUpgradeに出資してます)に所属しているVC歴30年以上の超ベテランです。2003年に個人でAVCというブログを開設、現在まで毎日更新しているというすごい記録の持ち主でもあります。記事はコンパクトなものも多く米国のVCの視点を短い時間で読めるのが良いです。口語表現が多用されているので、そちらの学習にもプラスです。

このブログで「Who Are My Investors?」というタイトルのポストがありました。以下冒頭箇所の引用です。
I got an email from the CEO of one of our portfolio companies last week.
It asked a very basic question, but one that I don’t recall being asked before:
(先週出資先のCEOからメールで受けた質問は、ごく基本的だがこれまで受けたことがない類のものだった)

I need to know if any of your LPs include  ……….  entities/interests. 
(御社のファンドの出資者に………の関係機関や利益関係者が含まれているかを教えて欲しい)

The CEO asked his VCs because questions were coming up internally and he wanted to answer honestly and accurately.
(この質問の背景には、社内で持ち上がっている疑問に正直かつ正確に回答したいというCEOの思いがあるようだ)
※「LP」は「Limited Partner」の略で、VCファンドへの資金提供者のことです。一般的にVCファンドは機関投資家(年金基金、大学基金等)や超富裕層のファミリーオフィスをLPとして出資を受け入れています。

引用箇所だけだとわかりにくいですが「………」で伏せられているのはそれ以降の文脈から「サウジアラビア」だと思われます。引用箇所の少し後には「rulers in the gulf who turn out to be cold blooded killers(冷血な殺人者であることが判明した湾岸地域の支配者)」という刺激的な表現も見られます。

カショギ氏殺害事件についての報道が繰り返される中、スタートアップの社員がCEOに対して「ウチにはたとえ間接的にでもサウジアラビア関係の資金が入っているということはないのか?」と問い合わせたということでしょうか。質問した社員の意図が「サウジアラビアの資金が入っているのであればこの会社で働くのを考え直す」というところまで踏み込んでいるのかどうかは分かりませんが、Fred氏の「I expect to get more emails like this in the coming weeks(今後同様の問い合わせが増えるだろう)」という感想が述べられており、今回の騒動が米国で重大に受け止められていることが伺えます。このブログ記事だけで全体を判断できるわけではないのですが、影響が確かに広がっているのは感じられます。

この状況はサウジアラビアの資金を受け入れいているVC、例えばソフトバンクのビジョンファンドからするとかなりインパクトのある話です。スタートアップでは「いかに人材を集めるのか」というのが成長していく上で大きな課題のひとつですが、たとえ間接的とはいえサウジアラビアの資金が入っている会社で働くのを躊躇する人が多くなると、サウジアラビア関係のLPが出資しているVCファンドは出資先の獲得に苦戦していくことになりそうです。なんとかスタートアップに出資できたとしても、そのスタートアップが働く場所として避けられるようになるのをいかに防ぐのかという課題が残りますし、最悪のケースでは今回の一件でサウジを嫌ったユーザ離れにも繋がる恐れがありそうです。

ここのところサウジの資金力をバックにしてスタートアップに大金をばらまいてブイブイいわせていた孫さんですが、まさかこんなところにブラック・スワンがいるとは想像してなかったでしょう。

はたしてソフトバンクは今回のサウジリスクを乗り越えられるのでしょうか。